1 遺産分割と訴訟
遺産分割そのものには、訴訟という手続はありません。遺産をどのように分けるかは、遺産分割調停、遺産分割審判で行われることになっています。しかし、遺産に関係することではあるが、遺産の前提問題や関連する問題については、裁判を行うことになります。
具体的には
①遺言の有効性について
②遺産の範囲について
③預金の使い込み
④勝手に協議書を作成された
などの場合です。以下、解説していきます。
2 遺言無効確認訴訟
(1)有効な遺言書が存在する場合は、その遺言書に基づいて遺産を分割します。
しかし、遺言書の有効性に問題がある場合があります。この場合は、遺言無効確認訴訟という裁判をする必要があります。これは、遺産分割をする前提の問題として、地方裁判所で裁判をすることになります。
(2)無効となるケース
遺言書が無効となるケースとしては以下のようなものがあります。
●自筆証書遺言の形式違反
自筆証書遺言は、全文、氏名、日付を自署しなければなりません。自署でないものは無効となります。
※ただし、近年法改正があり、財産目録については自署でなくもよいことになりました。また、自署であっても、日付を●月吉日と書いたケースで日付を特定できないとして無効とされたケースがあり、書き方にも気をつける必要があります。
●遺言能力がない
遺言には遺言能力が必要とされています。例えば重度の認知症や精神障害がある状況では、無効となるケースがあります。ただ、認知症だから常に無効となるわけではなく、その程度、遺言の内容の難易などによって判断は分かれます。
●公正証書遺言で口授を欠いていた
公正証書遺言は、口頭で遺言内容を公証人に伝える必要があります。状況によっては、この口授を欠いていて無効となることがあります。
(3)当事務所の解決事例
遺言者が亡くなる直前に病院の集中治療室で公正証書が作成されたケースでした。当時のカルテ等から遺言者の症状、当時の具体的状況から口授がされていないことを主張し、遺言者が明確に遺言の意思を示しておらず、頷いていただけだったと認定され、公正証書遺言が無効となりました。
3 遺産範囲確認訴訟
遺産分割をするためには、何が遺産であるかを確定しないと、分割をすることができません。例えば、名義預金のように配偶者、子の名義で預金をしていて、実質は被相続人の勇んでないかが争われるようなケースがあります。何が遺産かは、遺産分割の前提問題ですので、遺産分割調停とは別に先に遺産範囲確認訴訟という裁判をする必要があります。
4 不当利得返還請求訴訟
(1)被相続人が母、相続人が長男と二男というケースで、長男が母の通帳から生前に勝手に預金を引き出していたようなケースです。
これは、生前に母の預金から長男が無断で引き出していたとすると、母が長男に対して、無断で引き出した金員を返還せよという請求ができることになります。その後、母が亡くなると、その返還せよという請求権を相続することになります。例えば、長男が1000万円を引き出していたとすると、法定相続分である500万円を返還せよという裁判を起こすことになります。これを不当利得返還請求訴訟といいます。
(2)当事務所の解決事例
①同居していた長男が何年にもわたり多額の金員を引き出していたというケースでした。長男は、委任を受けていたこと、必要な資金であったこと、贈与もあったことを主張しましたが、銀行に提出されていた委任状や払い戻し請求書は被相続人の字ではなく、被相続人の病歴、施設への入所タイミングや必要資金からしても、無断で引き出したことが認められ、贈与の立証もできなかったため、当方の主張が認められました。
②①とは逆に無断で引き出したとの主張に対して、当時の必要資金の整理、領収書や見積書などの可能な限りの証拠をそろえ、そこから全体の必要経費を主張立証することにより、不当利得ではないことが認定されました。その後、遺産分割として全体を処理し、円満な解決に至ることができました。預金の使い込みは相続の際に問題となることが非常に多くあります。裁判では証拠に基づく事実が認定されますので、いかに適切な証拠を残しておくかが非常に重要になります。
5 遺産分割協議無効確認訴訟
(1)遺産分割協議が勝手に作成された場合、一見遺産分割は完了しているように見えますが、勝手に作成された遺産分割協議書は有効なものではありません。そこで、遺産分割協議が無効であることを確定させた上で、改めて遺産分割協議を行う必要があります。
(2)当事務所の解決事例
遺産分割協議書が偽造され、登記の移転、預金の解約がされていました。法務局に登記申請の際に提出される書類から明らかに偽造の痕跡があったこと、印鑑登録カードの保管状況などから、偽造であることを立証し、遺産分割協議が無効であることが認められました。
6 遺産分割の前提が問題となった場合
すぐに弁護士にご相談ください。遺言の有効性などは法的に難しい問題を多数含んでおり、法律の専門家でなければ判断することは難しいでしょう。