1.遺言書の種類
一般的な遺言書には「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
(1)公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人の面前で作成をする遺言書をいいます。
遺言者が公証役場に出向き、証人2名の立会の下で公証人に遺言の趣旨を口授し、公証人がそれを筆記して読み聞かせ、遺言者と証人が署名捺印をして作成します。公正証書遺言の原本は公証役場で保管され、遺言者にはその写しである正本と謄本が渡されます。なお、公証役場でのオンライン検索も可能です。
公正証書遺言は自筆証書遺言に比べると、公証役場へ出向いたり証人を2名確保する手間や費用がかかりますが、最も問題が生じにくい遺言だと言えます。
(2)自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者本人が、本文の全文・日付・氏名を自筆で書いた遺言です。パソコンでの作成や代筆は認められず、必ず自分で書かなければなりません。また、遺言書には捺印も必要とされています。ただし、遺言書に財産目録を添付する場合には、財産目録のみ自書は不要とされています。
最も簡単かつ無料で作成できるという点は利点に思われるかも知れません。ですが、一般の方が自筆証書遺言を作成した場合、内容が不明確だったり必要な要件を欠いて、法律上無効となるリスクが高い遺言書と言えます。また、自筆証書遺言はタンスの奥深くにしまっていて相続人に見つけて貰えないことや不利なことを書かれた相続人が遺言書を隠されてしまうリスクもあります。
なお、令和2年7月10日より、自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことができるようになりましたので、保管制度を利用すれば、自筆証書遺言が見つからなかったり隠されてしまうリスクは避けることが出来ます。
(3)秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者が署名、捺印をした遺言書を封印し、封印をした状態で公証役場へ提出する形式の遺言書で、公証人と2名の証人にその封書を提出し、自己の遺言書である旨と自身の住所、氏名を申述することで作成します。封書で提出しますので、公証人・証人は遺言書の内容を確認していません。他の方式に勝るメリットがないため、実際にはほとんど利用されていません。
2.遺言書を作成したい方へ
(1)相続対策としての遺言書
遺言書は遺言者が遺産をどのように分配するかについて予め指示をするもので、何より優先される基準となります。遺言書を作成することによって、相続人間で遺産分割の話し合いを行う必要がなくなり、スムーズに遺産を相続人に分けることが出来ます。
遺言書が作成されていない場合には、相続人全員で遺産の分け方について話し合い(遺産分割協議)をし、全員が分割方法について合意をしなければ、遺産を分けることが出来ません。協議に数年かかることも珍しくはありません。生前から相続人間の仲が悪い場合だけでなく、相続人の1人が欲を出したり、これまでの些細な取り扱いの差をここで埋めようとすることで、遺産分割協議をきっかけに関係が一気に悪化することもあります。最も身近な関係であるからこそ、気持ちを抑えることが出来ず、相続をきっかけに二度と関係が回復しないことも珍しくはありません。
遺言書があれば、遺言書の内容によっては不満を持つ相続人も出てくるかもしれませんが、殆どの場合は「遺言書で決められているから仕方がない」「それが被相続人の遺志なのだ」と納得されます。
・介護をしてくれた子どもにより多くの遺産を残したい
・子どもがいない場合に、妻に全ての遺産を残したい
・内縁の妻にも遺産を残したい。
・孫にも財産を残したい。
・再婚して子どもをもうけたが、前妻との間にも子どもがいる
・一緒に事業を運営してきた子どもにそのまま事業を承継させたい。
・相続人間の関係が良くなく、遺産分割で揉めることが予想される
といった場合には特に遺言書を作成しておくメリットが大きいといえるでしょう。
(2)弁護士に依頼するメリット
①有効でご遺志を明確に伝える遺言書が作成出来ます。
自筆証書遺言は、弁護士に依頼することなく作成することが出来ます。ですが、遺言書には厳格な要件が定められており、要件を満たさない遺言書は無効となってしまうリスクがあります。また、ご自身ではしっかりと書いたつもりでも、法律的にみれば曖昧・不明確で、その解釈について争いが生じてしまう可能性もあります。亡くなった後の紛争を防いでスムーズな相続をする為の遺言書が、かえって無用な紛争を招いてしまっては、本末転倒です。
専門家である弁護士に依頼することで、内容に不備や不明瞭な点がなく、遺言者の遺志を明確にお伝えする遺言書を作成することができます。
②証人2名を弁護士が用意します。
公正証書遺言を作成するためには証人2名を用意し、遺言作成日には立会をしてもらわなければなりません。未成年者や将来相続人となる予定の者やその配偶者・直系血族、遺言によって財産を受け取る人などは証人になることは出来ません。また、証人は遺言書の内容を知ることになりますので、信頼のおける人にお願いしなければなりませんが、快諾してくれる方を探すのは思いのほか苦労します。
弁護士に依頼することで、証人2名は弁護士で確保できますので、証人を用意していただく必要はありません。
③遺言書作成に必要な書類・公証人との打ち合わせは全て弁護士が行います。
正確な遺言書を作成するために、不動産登記簿謄本や固定資産評価証明書、戸籍謄本等さまざまな資料を準備して公証役場に提出しなければなりません。また、公正証書遺言を作成するためには、事前に公証人と何度も遺言書の内容を打ち合わせしていかなければなりません。打ち合わせの際には、難しい法律的な論点について意見を求められることも珍しくはありません。
弁護士に依頼することで、必要な資料の収集は勿論、公証人との協議も全て弁護士が行いますので、難しい相続の論点に頭を悩ませ時間と労力を取られることもなくなります。
④遺言執行者を弁護士に依頼することができます。
遺言書を作成した場合には、通常、遺言書の内容を実現するための遺言執行者を定めます。遺言執行者は民法に従って財産目録等の作成や金融機関の解約手続、不動産の売却手続等も行って迅速に遺言書の内容を実現しなければなりませんので、法律に精通していなければ、荷が重い仕事といえます。
遺言書の作成を弁護士に依頼すれば、遺言執行者も弁護士に依頼することが出来ます。