1.遺産の使い込みとは
遺産の使い込みとは被相続人(故人)の亡くなる前後で、一部の相続人が被相続人の財産を被相続人に無断で勝手に使ってしまうことをいいます。
・高齢になって、キャッシュカードや通帳を渡して入出金などの資産管理を子どもに任せていたところ、その子どもがその口座から勝手に預金を引き出して自分や自分の家族のために使ってしまっていた。
・施設に入居した親の実印を勝手に使って、勝手に保険や有価証券を解約・現金化して使ってしまう。
・被相続人が亡くなった直後に、預金口座が凍結される前に多額のお金を引き出してしまった。
といった例が挙げられます。
2.生前の使い込みの場合
(1)生前の使い込みについて、使い込みを疑われている相続人が使い込みの事実を認めた場合には、遺産の分配を決めるにあたり、当該使い込みの額分を先に受け取ったものとして計算をすることで、相続人間の公平をはかることが出来ます。
ですが、実際には使い込みを認めるケースは残念ながら少ないと言えます。使い込みを認めない場合には遺産分割協議も難航することが予想されますが、遺産分割とは亡くなった時点での遺産の分配方法を決める手続ですので、遺産分割協議とは別に、地方裁判所に対して不当利得または不法行為を原因とした民事裁判を提起することとなります。
それぞれの請求原因には時効があります。
・不当利得は権利を行使できることを知ったときから5年、権利を行使することができる時から10年、
・不法行為は損害及び加害者を知ってから3年、不法行為の時から20年
と決められています。ですので、使い込みの事実が発覚したら速やかに動き出さなければなりません。時効が成立してしまうと、取り戻すことは出来なくなってしまいます。
(2)裁判では、預貯金通帳や出金依頼書、被相続人の生前のカルテや診断書等を提出し、相続人が被相続人の同意を得ずに勝手にお金を引きだして、被相続人のためではなく自分のために使ったことを立証する必要があります。使い込みを認めない場合に立証に十分な証拠を集められなかった場合には、裁判で使い込まれた遺産を取り戻すことは困難です。
3.亡くなった後の使い込みの場合
(1)亡くなった後の使い込みの場合既に出金に同意できる本人がいませんので、生前の使い込みに比べると、当該財産を管理していた相続人が同意なく引き出したことは、明らかになりやすいと言えます。
(2)遺産の使い込みが疑われる事案では、そもそも相続財産の範囲が明確ではないとして争いになるため、遺産分割調停や審判などの対象外になっていました。ですが、民法改正によって、亡くなった後に遺産の使い込みがあるケースについては、使い込んだ相続人以外の相続人全員の同意があれば、使い込んだ相続人の同意がなくても、使い込み分も相続財産に持ち戻して遺産分割調停などを行えることになりました。あくまでも、亡くなった後の使い込みに限定されている点に注意が必要です。
なお、生前の使い込みと同様に、地方裁判所に不当利得や不法行為を原因とする一般民事訴訟を提起することも可能です。
4.弁護士に依頼するメリット
さきほどお伝えしたとおり、使い込んだ遺産を取り戻すためには、使い込みを立証するための十分な証拠が必要となります。それらの証拠を集めるのは非常に時間も手間もかかる作業ですし、手続も各機関ごとに定められていることも多く複雑です。また、取得した資料が使い込みを立証するに足りるものであるか、裁判で請求しえるものであるかどうかの判断も慎重に行わなければなりません。
時効にかからないように、迅速に専門的な観点から検討をしなければなりませんので、使い込みが疑われた段階で早期に弁護士に相談されることをお勧めします。